2009年3月2日月曜日

『なぜ世界は不況に陥ったのか』・第一章 池尾和人・池田信夫

 本書は、今回の金融危機の本質・そしてそれが示唆することを明らかにし、そうした中で現代の経済学の最先端に見える地平について著者たちが語り合ったものである。

 それにあたってまず、著者らは今回の金融危機が生じたプロセスから述べる。

 今回の金融危機の発端はサブプライムローン、つまりはアメリカの住宅モーゲージ市場がクラッシュしたことから始まる。

 このサブプライム問題について抑えておくべきは、第一にその発端が住宅バブルの崩壊であったという自明の事実、第二にそのバブルの生成・崩壊がいかなる金融システムの下で起こったかという点である。
 日本のバブルの発生は、伝統的な銀行中心の間接金融体制の下で起きた。しかし今回のバブルは、極めて高度・複雑に発展していた重層的市場型金融の下で起きたのであり、この違いが重要である。というのも、アメリカでは資金調達者から資金提供者までの距離が非常に長い構造になっているのである。
 そうであるがゆえにアメリカでは資産価値の適正価格を見出すことが非常に困難であった。それゆえに投資家は資産価値の格付けを信用し、それだけを頼りにしていた、という点がこの問題を考えるにあたって重要な点である。

 ↑ *1 に概説

 このサブプライムローンというのは、借り手を半ば騙すことで大きく割合を増やしていた。これがこの問題を深化させた。
 元来、サブプライムローンというのはマイナーな存在であった。信用度の低く「非適格物」として分類されていたサブプライムは、市場においもごく僅かなシェアしかなかった。なお「非適格物」とはフレディマック・ファニーメイといった住宅金融公庫的な機関に買い取ってもらえるだけの条件を満たしていないものである。
 もちろんリスクの高い人に住宅資金が借りられるようになったのは必ずしも悪いことではない。グリーンスパンなどの著名人も素晴らしい制度であると褒めていた。しかしこれを実現可能にしていたのは、金融技術ではなくただ住宅価格が上がっていたからに過ぎなかったのである。
 
 資産価値の格付けが一斉に下がり信用できなくなったとき、取り付け(run)が発生した。取り付けとは、投資家たちがファイナンスに応じない・資金を回収する・ファンドであれば解約を求める、といった行動に一斉に出ることを指す。これは投資家にとって合理的な行動である。資産価値を適正に評価する際のコストを換算すれば、正当な権利である先述の行動に出ることが安くつくであろう。

 そしてサブプライムローンは他の市場へ飛び火する。ヘッジファンドや投資銀行が、サブプライムのように見かけだけの収益をかさ上げしてきたことが段々明らかになってくるからである。一時期はFEDの介入などにより平穏になった状況が、二〇〇八年夏から一挙に危機が再燃・拡大し始めるのである。





 *1 … 資産価値の適正価格を見出すのがなぜ困難であったか

 住宅バブルの生成・崩壊において、その住宅価格の上昇が見られるのは一九九七年ごろからである。(例えば賃料に対する価格の比率、株式でいえばPERなどで確認できる。)
この住宅価格がピークアウトした二〇〇六年春~夏から一年ほどして金融危機が始まる。 

 ピークアウト後に金融危機が発生した背景として、このサブプライムローンというものが住宅価格が持続的に上昇していくことを前提にして成り立つことが挙げられる。関係者はローンの返済が滞るケースが増える中でオリジネートしてもディストリビュートしなくなってくる。

 なお、オリジネート・ディストリビュートとは金融における用語である。住宅ローンを貸し出していたのはモーゲージバンクという金融機関が主体で、自分が貸し出した住宅ローン債権をまとめて証券化し(オリジネート)、それを売却することで(ディストリビュート)資金調達をしていた。しかしヤバい状況下に陥ると債権を中々証券化することができず、最終的には債権を抱え込んだオリジネーター自身が破綻し始める。

 モーゲージバンクの貸出・そして貸出債権を証券化することにおいて、その証券化商品をRMBSと呼ぶ。これはいくつかのクラス、シニア(優先)・メザニン・エクイティ(一番劣後する箇所)に分けられる。シニア・エクイティの部分に買い手がよくつく。(その主要な購入者は、シニアの部分は機関投資家・そしてエクイティの部分はヘッジファンドである。)しかし中間的部分であるメザニンはあまり売れない。これはミドルリターン・ミドルリスクはあまり好まれないからであり、それゆえにそれらをかき集めて第二次証券化商品が作られた。それをCDOと呼ぶ。この第二次証券化商品においてもメザニンの箇所は売れず、さらにCDOスクアードと呼ばれるものも作られたりした。

 そのようなCDOを、MMF・SIVといった金融機関・会社が購入し、さらにそれを担保にしてCP(ABCP)というものの発行やレポ取引を行っていたりした。

 このように、アメリカでは資金調達者から資金提供者までの距離が非常に長く、資産価値を評価するのが大変であった。これに対して日本の場合は、借り手と銀行の関係だけであったので、DCF法で貸出債権を評価しなおせばよいだけであった。

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